大谷翔平選手が10時間寝ることは有名だが、睡眠の質も非常に高いことが推測される。その睡眠があってこその、世界的記録なのだろう。
「最高の睡眠」は、最高のパフォーマンスを与えてくれる。回復力、免疫力、精神的ストレス解消、脳機能が劇的に変化するからだ。
本書は、世界的睡眠の権威「スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所」の研究を元に、栄養学の視点を交えて編集した。
最高の睡眠は90分で決まる!
睡眠サイクル
眠りにはレム睡眠(脳は起きているが体が寝ている状態)とノンレム睡眠(脳も体も寝ている状態)があり、それが90~120ごとに繰り返される。寝始めてすぐに最も深いレベル4のノンレム睡眠が現れ、その後レベル3、レベル2と眠りは浅くなっていく。
最強の黄金タイム
眠り始め90分の黄金タイムが、睡眠の質を決定する。最高の睡眠とは、この90分間をいかに最高の状態にするかだ。その後の睡眠の質は、それを超えることができない。
最強ホルモンを分泌
「成長モルモン」を聞いたことがあるだろうか?子供の成長を促すだけでなく、細胞の増殖や修復、代謝促進、免疫力の強化など、アンチエイジングにも影響するホルモンだ。
その成長ホルモンの70~80%は、眠り始めの90分に分泌される。アルギニンや亜鉛など、成長ホルモンの分泌を促すとするサプリメントが販売されているが、成長ホルモンは良質な睡眠があって分泌され、それらの成分は補助にしか過ぎない。
最初の90分で起こること
1,成長ホルモンの分泌
成長ホルモンの分泌は、他のホルモンとは違い、ノンレム睡眠の質に依存している。いつもなら寝ている時間に起きていると、全く分泌されないのだ。明け方や日中に入眠した場合でも、夜の第一周期(黄金タイム)ほどの分泌はしない。
2,自律神経の調整
自律神経は活動時の「交感神経」と休息時の「副交感神経」がある。自律神経は呼吸、体温、心臓、胃腸などの動きをコントロールしており、バランスが乱れると、頭痛、イライラ、ストレス、疲労感、倦怠感、肩こり、冷え性、なんとなく調子が悪いなどの症状が現れる。
3,脳のコンディショニング
ノンレム睡眠(最初の90分)が不充分になると、脳波のリズムが乱れ、うつ症状や統合失調症につながりやすくなる。最初の90分のノンレム睡眠が正しく出現することで、脳や精神のバランスを整えている。
最高の睡眠2つのスイッチ
2つのスイッチを押せば、スムーズに眠りの世界に誘い、途中で目覚める悩みも減り、翌日には頭が冴え、パフォーマンスもアップする。
そんな睡眠のクオリティを上げるのは「体温」と「脳」の2つのスイッチだ。
1,体温スイッチ
体温には「皮膚体温」と「深部体温」があり、日中の温度差は深部体温が2℃ほど高い。入眠時には皮膚体温が上がり、深部体温が下がり、その差が縮むことで入眠モードに入る。子供が眠くなると手足が熱くなるのは、深部体温を下げるための熱放散なのだ。
体温スイッチとは、皮膚体温を上げて熱放散を起こして、深部体温を下げる方法だ。
体温スイッチ① 90分前入浴ルール
もっとも手早く、深部体温を下げる方法が「入浴」だ。入浴すると皮膚体温と深部体温が上昇する。人体には体温を一定に保つ恒常性維持機能があるため、深部体温は上がった分だけ、大きく下がろうとする。
仮に40℃のお風呂に15分ほど入ると、深部体温は約0.5℃上がる。この深部体温が元に戻るのが約90分で、それ以降も低下し続ける。つまりお風呂を出てから入眠までの時間は90分がベストということだ。
入浴から入眠までの時間が少ないと、深部体温が下がりきらず、寝つきが悪くなったり、睡眠の質が低下したりする。
そのため90分のクールダウンが確保できない場合は、シャワーで済ませるのが得策だ。
体温スイッチ② 足湯パワー
シャワーよりも効果的なのが「足湯」だ。足湯は体温を下げる熱放散効果が高い。その理由は足には毛細血管が多いからだ。
そのため足の血行をよくして、熱放散を促してやれば、短時間で深部体温を下げられる。深部体温の上昇も少ないので効率的だ。
体温スイッチ③ 室温調整
睡眠に適した室温がある。しかし個人差が大きく、その日の気温湿度にも影響するので、定めるのが難しい。今後の研究材料であり、一定の法則が示されることを期待する。
枕で体温調整をすることもできる。頭寒速熱が示すように、頭を冷やして足を温めると、良い睡眠がとれるという先人の知恵がある。そのような寝具も販売されているので、検討してみては如何か。また物体は北部分が南部分よりも温度が低いことから、北枕という方法も試す価値はある。
2、脳スイッチ
脳(神経)の興奮は入眠の妨げになる。いかに脳のスイッチをOFFにして、リラックス脳波「α波」を出現させるかが重要だ。
眠りの天才と言われる人たちは、入眠前に頭を使わないという。また睡眠は、騒音や室温などの外的影響も受けるので、それらも含めて脳のスイッチをOFFにするためには、単純化した自分流の「睡眠ルーティン」を作ることだ。
脳スイッチ① モノトナス
自分なりの「睡眠のルーティン」を作り、モノトナス(単調)状態にすることだ。まずは脳を興奮させる行動を禁止する。
スマホのブルーライトや操作で、脳を覚醒させてしまう。入眠の1時間前にはスマホを見ないようにしたい。
テレビは脳を興奮させるので、入眠前の視聴は避ける習慣化。ちなみに寝落ちの睡眠の質は良くないので、熟睡とは言えないことが多い。
適度な運動なら入浴と同じ効果が得られる。しかしやりすぎると、覚醒スイッチを押してしまうので、軽いストレッチ程度でOK。
脳のスイッチ② ヒーリング
交感神経の刺激を遮断したら、今度は副交感神経を優位にする環境を整えることだ。それは五感を通して行っていく。
① 目:照明を暗くする(暖色系)
照明を暗くしてメラトニンの分泌を促進。
② 耳:ヒーリング音楽を聴く
最近流行りの入眠音楽などが効果的だ。
③ 鼻:アロマやお香
睡眠を誘うアロマでリラックスモード。
④ 口:口は閉じる
口を閉じて鼻呼吸(腹式呼吸)を意識する。
⑤ 皮膚:室温調整
暑くなく寒いくもない程よい室温に調整。
睡眠をもたらす栄養の世界
本サイトの主テーマである「栄養」についても触れておきたい。
近年、睡眠系のサプリメントが数多く販売されている。「本当に効くのだろうか?」「全然効果を感じない!」などと聞くことが多い。
そもそもサプリメントは、補助栄養素なので、医薬品のような顕著な効果を期待してはいけない。まずは本書に掲載した「体温スイッチ」と「脳スイッチ」を実践してみよう。
睡眠物質メラトニンの分泌促進
睡眠物質(ホルモン)として有名なのが「メラトニン」だ。睡眠系サプリの多くは、メラトニンの分泌を高めることが開発テーマだ。
メラトニンは生体リズムを調整する催眠ホルモンだ。そのためメラトニンの分泌を促すことが、入眠時間の短縮、睡眠の質に関わる。
しかしメラトニンを就寝前に摂取しても、睡眠効果は期待できない。なぜなら昼間分泌されるセロトニンが影響するからだ。
日中、太陽の光を浴びることでセロトニンが生成される。その量に比例して、メラトニンが分泌される。いずれも必須アミノ酸のトリプトファンから生合成される。
つまり昼と夜はセットということだ。昼間に太陽を浴びて、就寝前に2つのスイッチを押す。自ずとメラトニンの分泌が促進される。
トリプロファンを摂取するなら、炭水化物、ビタミンB6も同時に摂取したい。必須アミノ酸に分類されるBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)は、トリプトファンの脳への移行を邪魔する働きがあるので同時摂取はNG。
メラトニン・サプリはNG
直接メラトニンを摂取できるサプリメントが販売されているが、摂取タイミングが難しいこと、妊婦や小児には危険性の指摘があることから、自己判断での摂取はおすすめできない。
追加:睡眠薬がもたらす薬害
どうしても寝むれない日が続くと、睡眠薬や睡眠導入剤の力を借りたくなる。しかし興奮ホルモンを強制的に抑え込んでしまうので、自力でホルモン調整をする能力が低下してしまう。
どうしてもという人は、服用に関して充分に注意してもらいたい。
編集後記
睡眠はアスリートだけでなく、人類にとって大切な時間だ。人生の3分の1を占める睡眠の質によって、人生が変わるのは当然といえる。
覚醒時の能力を最大化するためにも、最高の睡眠はもっとも重要なテーマのひとつといえる。この記事が少しでも読者のお役に立てることを大変嬉しく思います。
著者:菅田貴司/スポーツ栄養学アドバイザー
参考文献:「スタンフォード式 最高の睡眠」スタンフォード大学医学部教授 睡眠生体リズム研究所所長 西野精治著/サンマーク出版、「睡眠こそ最強の解決策である」カリフォルニア大学バークレイ校教授・睡眠神経イメージ研究室所長Matthew Walker, PhD/SB Creative、
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